ひとに何かを伝えようとするときにたいせつなのは、気合と迫力。
それをしみじみと実感したのは、パリの紙屋さんでのこと。
ものすごい早口のフランス語でまくしたてられる、そこの紙のスゴさについて。
よくはわからないが、なんだかとてもとてもスゴイものらしいな ...。それだけは感じられた。
マダムが、いかにそこの紙がほかの紙とちがうのかを、熱く、熱く、(わたしにとってはかな〜り)暑く(るしく)、語ったときのこと。鼻がくっつきそうなほどの、かなりの至近距離なのでどうにも逃れられない。
大柄でふくよかな体型、獲物(わたし)をみつけてらんらんと輝きをはなつ目力、日本人より高い体温から放射される熱、レッドの口紅がきっちり塗られた目の前で素早く動いている唇。
ここから出てくる文字は、気合だ! 迫力だ! この2文字のみ。
実はその店、フランスの紙メーカーではなく、イタリアの由緒ある紙メーカーの店なのだが、「ほーら、触ってみて、ちがうでしょ?」「ね、ね、色のね、発色がまったくちがうでしょ?」「もう、ぜーんぜん、ほかの紙とはね、次元がちがうのよ、わかるでしょ?」。こう問われて、ノンとは絶対に言えない。つかんだら放さないマダムの迫力はすごかった。
そんなわけで、どっしりと重い紙製品をあれこれ買い求め、パリから持って帰ることになった。
ちがいがわかるような人でないと、「なんでフランスなのに、イタリアの紙製品なのぉ?」となるので、わかっていただけそうな方だけに差し上げた。
思えば、ホテルも同じだ。
ちがいがわかる人にしか、わからないさりげないサービスとかって、けっこう多い。ちがいがわかるお客が来ないと、そこのサービスもすたれてしまう。
それゆえ、ホテルにとっていちばん大切なのは、客層だ、とわたしは思う。
ああ、わたしの心をつかんで放さない「迫力あるホテル」に出会いたい。