香港エアポートのカフェで。
隣席はカナダから夏休みで香港に里帰りし、帰国する中国人ファミリー。
3人兄弟の末っ子の娘(2才くらい)が「やめなさい!」とママが何度言っても聞かず、さっきからストローで悪さをしている。
ついにママ、ブチ切れ。
「わかった。おまえはカナダに帰らなくていい。香港に置いていく!」
「わーい、おまえだけ香港にいるんだー!」はやし立てる兄たち。
だんだん涙目になっていく末娘。
ついに娘の頬に涙がつたうと、辛抱たまらなくなったパパが
「ほら、泣いてるじゃないか。おーよしよし」と抱き上げ、涙をぬぐってやる。
ようやく泣き止み、横に戻って来た娘にママは指先を突きつけ容赦ない口調で言う。
「Never Ever Do it! You understand?!
もう金輪際、絶対にしちゃダメ! わかった?」
パパをかるーく籠絡できたので、末娘はちょっと余裕、ちゃんと返事をしない。
すると、ママの目がすっと細くなったと思うや凄みのある低い声が響いた。
「そう、わからないのね。
わかったわ、おまえはもう私の娘ではない。よその子よ。行きなさいっ!」
ここからは阿鼻叫喚の修羅場。
パパと息子たちは、口も手も出せずに固まっている。
娘の泣き声も枯れ果てて、顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった頃、
ママが娘に凛とした声で問うた。
「おまえはさっきからものすごく悪い子だった、そうね?」
「おまえはこれからママの言うことには何でも従うのね?」
「おまえはママのことを愛してるのね?」
これらすべての質問に首が千切れんばかりにうなづき、
「イエース、マミー、イエース」とかすれた涙声で訴え、ようやくお許しが出た。
すると一転、ママは甘い声で言った。
「いい子ねぇ、じゃあ、アイスクリームとってあげるわねぇ」
娘の頭を抱き寄せるママの勝利感に満ち満ちた顔。
これを見ていちばん怖そうにしてたのは、パパだった…。
旅立ちの香港の空は暴風雨だったが、あのチャイニーズ・ママにはかなわない。