きのう、パリに到着し、サンジェルマン・デプレをぶらぶら歩いていたら、フランス人の品の良いマダムに呼び止められた。
「エクスキュゼズ・モア・マダム」
道に迷ってるので教えてほしいと丁寧な口調で言う。
瞬間的にセンサーが働いて人相風体をチェックすると、知的な雰囲気で良いものを着ている。周囲を見回したが、わたしの関心をひきつけておいて他の誰かがスリ行為におよぶ、という類のものではないようだ。
ちなみにわたしは、なぜかわからないが、日本ではもちろんのこと、世界各地どこに行っても、非常にしばしば道を聞かれる人間である。
わたしもパリに着いたばかりなのだが、ともかく、
「どちらへ行かれたいのですか?」と尋ねると、
「シマへ行きたいのですけれど、どっちの方向に行ったらいいかわからなくて」
は? シマ…シマってどこだろ?
「シマ…ウ・エ・シマ?」
「小さなシマ、ラ・セーヌにある」
セーヌ河にある小さなシマって…ああ! もしかして、それって、
「イル・ドゥ・ラ・シテ?」
「ウィ、ウィ!」とうれしそうに言う。
だったら最初からそう言えばいいのに…。
「ね、それって『シマ』でしょう?」
いかにも日本人らしいわたしに、知っている日本語を使ってみたかっただけなのかどうか、世の中にはほんとうにいろんなひとがいる。