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ホテルジャンキー村瀬千文とホテルにまつわるヒト・モノ・コト

我が愛する戦利品と男たち

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シンガポールに着いてから、旧正月であることに気づいた。チャイナタウンはいつもに増してカラフルで、通りの店先には赤や黄色の飾りが踊っている。

赤地に黄色の文字で「招福」と書いた紙の小旗が気に入り、買いたいとおもって探したのだが、みつからない。ふと見ると、通りで駐車中のトラックに「招福」の小旗がいっぱいに飾られていた。いいな、いいな、と小旗にそっと手をやり、ためつすがめつ見ていると、運転席からなにやら中国語で怒鳴る声。触ったんで叱られちゃったかと思い、「Sorry.  As I like it. ごめんなさい、それ気に入っちゃったもんで」と言うと、白髪混じりの短髪こわもて顔のおじさん、窓から顔を出して「Take it! 持ってきな」。「謝謝シエシエ」とお礼を言って1本もらうと、おじさん、口角をわかるかわからないくらい上げて厳かにうなづいた。

 

リスボンの「カフェ・ブラジリア」でエスプレッソを注文し、ついてきたアルミのうすっぺらいスプーンが気に入ってしまった。ウェイターにスプーンを指差し、ポルトガル語の片言を駆使して「コレ、ホシイ、カイタイ」と言うも通じない。

どうもその店のロゴが入ったデミタスカップが欲しいと勘違いしたようで、「ノー、コレ、ウッテナイ」。いえいえ、カップではなくて、このスプーンが欲しいんだと身振り手振りで伝えようと試みるが、ダメ。

そこで、ウェイターの目の前にスプーンを掲げて見せてから、ポケットに入れる真似をすると、「ああ!」と笑い出し、苦笑いしながら「オッケー、オッケー」。

店を出る際、くだんのウェイターに「Obrigada オブリガーダ(ポルトガル語のアリガトウ)」と言うと、寄ってきて私のポケットに紙に包んだ小さなモノをすっと押し込んだ。そして、店を出てから開けろとの身振り。外で開けると、店のデミタスカップが1個。ガラス越しに投げキッスを送るとウィンクが返ってきた。

 

ニューヨークのウォルドルフ=アストリアホテルの「ブル&ベア」で食事をした際は、蹄鉄を模したナプキンホルダーが気にいり「I like it. 」と言ったら、メートルドテル氏、にこりともせずにテーブルの上から数個つかむと、私のバッグに放り込み、あさっての方向を向いた。

 

こうした我が愛する戦利品たちの思い出は、世界各地で出会った粋な男たちとの思い出でもある。